ペットと生きる医療【後編】“入院中も、ペットとつながっていられる医療”を実現する 「ペットおあずかりセンター」「ウィズペット病棟」とは

病気になったとき、治療を受けることと、大切な家族であるペットと生きること。もしも、どちらか一方だけ選ばなければならないとしたら…。
「入院すればペットと離れるのが当たり前?」
災害時のペット同行避難が推奨されている今、命に関わる病気の時も、家族であるペットと一緒に過ごすことはできないのでしょうか。
救命救急とがん医療の最前線に立つ松波総合病院は、そんな切実な願いに応えるため、“入院中もペットとつながっていられる医療”を、仕組みとして実現しました。
今回は、2025年4月に誕生した国内初のサービス、「ペットおあずかりセンター」と「ウィズペット病棟」の詳細をご紹介します。
「生き方も支える医療」の具体的な展開を、ぜひご覧ください。
「ここなら、治療を受けられる」
ペットと生きる医療を、現実の仕組みにするまで
「入院中も、ペットとつながっていられる医療」
その構想は、決して感情論だけで生まれたものではありません。
松波英寿理事長が見据えていたのは、医療の現場で日々起きている“静かな諦め”でした。
検査を先延ばしにする人、入院の話が出た途端に表情を曇らせる人…。
理由を深く聞いていくと、そこには多くの場合「家に残されるペット」への強い不安がありました。
「治療を受けること」と「大切な家族(ペット)を守ること」本来、どちらかを諦める必要はないはずです。
その当たり前を、医療の仕組みとして提供できないか。
松波理事長は、病院組織全体でこの課題に向き合うことを決断しました。
最前線の医療だからこそ見えた、回復の質を左右する課題
松波総合病院は、がん診療連携拠点病院であり、三次救急(救命救急センター)を併せ持つ、地域医療の要です。
緊急性・専門性が高く、高度な専門的医療を総合的に実施できる病院だからこそ、患者さんの「その後」の人生も重要視しています。
命が助かったあと、どのように生きていくのか
その選択肢が狭まってしまえば、医療は本当の意味で人を支えたとは言えません。
特にペットを飼っている高齢の患者さんや単身世帯にとって、ペットは生きる支えそのものです。
ペットと切り離された環境では、治療への意欲や回復の質を維持することが難しいという現実がありました。
【仕組み①】預けきりにしない「ペットおあずかりセンター(YPH)」
最初に形にしたのが、松波総合病院の敷地内に設けた「ペットおあずかりセンター」Your Pet in Hospital (以下、YPH)です。
ここは単なる預かり施設ではありません。
愛玩動物看護師の資格を持つスタッフや、動物への深い理解を持つスタッフが、環境省の飼育基準を遵守した環境で大切にお世話をします。
■YPHの大きな特徴
- 面会と交流: 一般的なペットホテルと異なり、主治医の許可があれば、入院中でも施設内の面会室でペットと触れ合えます
- 敷地内の散歩: 状態に応じて、病院の敷地内を一緒に散歩することも可能です
- 医療の延長: 衛生管理や感染対策を徹底し、“医療の延長線上”として設計されています
「姿が見える。声が聞こえる。それだけで、患者さんの表情は劇的に変わります」とスタッフは語ります。
■利用の流れと料金―「続けられる仕組み」にするために
急性期の治療や初期の病状評価を松波総合病院で行う間、YPHを利用することができます。
【利用条件と対象】(2026年1月現在)
- 対象動物: 現在は犬のみ(※猫については、今後検討予定)
- サイズ制限: 環境省のケージ基準により、体長53cm以内・体高45cm以内
- 健康条件: 狂犬病予防ワクチン接種済であること
【利用料金(税込)】
- 小型犬(8kg未満):1,815円/日
- 中型犬(8~20kg未満):2,365円/日
- 大型犬(20kg以上):2,915円/日
※別途料金が発生する場合があります。
料金は、長期入院でも継続利用しやすい水準に抑えられています。
治療中もペットと触れ合うことでストレスや痛みの軽減が期待でき、それが結果として早期回復を支える一助となります。

※ペットおあずかりセンター 面会室(写真:コヌンカーネ)

※ペットおあずかりセンター 大型ケージ(写真:コヌンカーネ)

※ペットおあずかりセンター 屋根付きの庭(写真:コヌンカーネ)

※ペットおあずかりセンター ペットゲート(写真:コヌンカーネ)

※ペットおあずかりセンターを利用された患者さんの愛犬(写真提供YPH)

※ペットおあずかりセンターを利用された患者さんと愛犬(写真提供YPH)
【仕組み②】回復期は「一緒に暮らす」ウィズペット病棟へ
病状が安定した後や、松波総合病院で状況評価を行った後は、回復期・慢性期治療を担う海津市医師会病院(海津市海津町福江)へ転院し、「ウィズペット病棟(WITH PET WARD)」を選択することが可能です。
ここでは、ペットと同じ病室で24時間過ごしながら、治療を継続できます。
■「ウィズペット病棟」の徹底した工夫
- 完全な動線分離: 一般の患者さんへの配慮から、ワンフロア全てを専用病棟とし、階段も一般動線とは分離しています(エレベーターは、人のみ利用可)
- 専用設備:人工芝を敷いた滑りにくい外階段や、敷地内に芝生とウッドチップを敷いた広大なドッグラン(22m×20m)を完備
- 専門家との連携: 動物看護師や提携獣医師と連携しており、万が一のペットの体調不良時も安心です
■【病室のタイプと料金(税込)】
- 特別室(25㎡): 16,500円/日
(ユニットバス・トイレ・洗面台・冷蔵庫・ミニキッチン・テレビ付) - A個室(12㎡): 8,250円/日(トイレ・洗面台付・冷蔵庫付)
- B個室(12㎡): 3,300円/日(冷蔵庫付)
各室には、ペットケージや空気清浄機、ソファが設置され、まるで自宅やホテルのような快適な空間で、日常生活の延長として療養に専念できます。
仮に、ペットだけを一般のペットホテルに預けた場合、地域や店舗によって価格やサービス内容は様々ですが、小型犬でも1日あたり5千~9千円前後かかります。
また、預ける際に普段食べているフードや薬などを持ち込みますが、飼い主と離れ離れになったペットは、環境が変わって食欲が落ちたり体調を崩すケースも多く見られます。
ペットも飼い主と同じ病室にいられた方が、きっと嬉しいのではないでしょうか。

※ウィズペット病棟 ペットケージ(写真:コヌンカーネ)

※ウィズペット病棟 個室ベッド側(写真:コヌンカーネ)

※ウィズペット病棟 個室例(写真提供ウィズペット病棟)

※ウィズペット病棟 ドッグラン(写真提供ウィズペット病棟)

※ウィズペット病棟 ペット専用外階段(写真:コヌンカーネ)

※ウィズペット病棟 ペット用足洗い場(写真:コヌンカーネ)

※ウィズペット病棟 ドッグランから見上げた全景(写真:コヌンカーネ)
終末期医療やペットの保護まで-「共に生きる」を最後まで守る
これらの取り組みは、回復を支える場面だけでなく、万が一の「看取り」の場面においても重要な役割を果たします。
「ウィズペット病棟」では、最期の時間もペットを隣に寄り添わせることができます。
患者さんの人生の一部であるペットを尊重することは、尊厳ある医療の形です。
また、もし患者さんの死後にペットの行き先がない場合に備え、保護・譲渡先についても各施設と提携を進めています。
「自分がいなくなった後、この子はどうなるのか」という不安を解消することも、「ウィズペット病棟」が考える医療の一部です。
125年続く伝統と、常に進化し続ける理由
松波総合病院は、1902年に開院し、125年の歴史を歩んできました。
「救急患者は断らない」という信念を代々受け継ぎ、民間病院でありながら「がん拠点病院」と「三次救急」の両輪を担い、地域貢献を続けています。
病院経営が厳しさを増す現代においても、医学研究や健康寿命の延伸、そしてこのペット共生医療に取り組む理由。
それは「社会が必要とすることをやる」というシンプルな使命感に基づいています。
選べることが、医療の質を高める

「ペットと一緒に入院しなければならない、というわけではありません。
しかし、“選択肢がない”状態は変えていかなければならない」
と松波理事長は強調します。
ペットと共に治療を受けたい人が、ペットと過ごせる快適な環境で、良質な医療を受けることができる。
「ペットおあずかりセンター」と「ウィズペット病棟」は、ペット共生社会における新しい医療のスタンダードを、ここ岐阜から発信し続けていきます。
「ペットおあずかりセンター」「ウィズペット病棟」の詳細はコチラから
【取材協力】松波総合病院

※松波総合病院全景(写真提供松波総合病院)
※取材執筆:コヌンカーネ(無断転載を禁じます)
▶ 【前編】はコチラから
【前編】では、救急医療の最前線に立つ医師が、自身の体験から、日本の医療の常識に挑み、国内で初めて「医療とペットの共生」に踏み出した軌跡をご紹介します。
病気になっても、その人らしい暮らしを―ペットと生きる医療【前編】
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